心理的負荷によって精神障害を発症し、その原因が業務上であるとして労災申請する事案が増加しています。
これまでは、労災申請があった場合、平成11年9月に発出された厚生労働省労働基準局長「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」に基づいて、業務であるかないかの判断を行ってきましたが、業務上災害が身体に生じた場合と異なり、精神障害は内面の問題であることから、業務上・外の判断には困難な面があります。
このため、現在、認定の審査には平均して約8.6か月を要しており、審査の迅速化、効率化が課題となっていました。
厚生労働省では、今回策定された基準に基づいて審査することにより審査の迅速化を図り、精神障害の労災申請事案について、6か月以内の決定を目指すとのことです。
厚生労働省によると、今回の認定基準のポイントは以下のとおりです。
| (1) 分かりやすい心理的負荷評価表(ストレスの強度の評価表)を定めた
|
(2) いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、
その開始時からのすべての行為を対象として心理的負荷を評価することにした |
(3) これまで全ての事案について必要としていた精神科医の合議による判定を、
判断が難しい事案のみに限定した |
|
なお、従来は、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」でしたが、今回は「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」となっており、「判断指針」が「認定基準」に改められています。
細かなことではありますが、判断指針から認定基準に改められたというのは、大きな意味があります。
判断指針の場合、指針が「物事を進めるうえでたよりとなるもの。参考となる基本的な方針。手引き。」(Yahoo辞書:大辞泉)とあるように、あくまでも判断のための参考という位置づけです。
しかし、認定基準となると、ここに定められている基準、要件を満たせば原則として業務上疾病として取り扱われることになります。
つまり、厚生労働省による認定基準のPR(1)にあるように「わかりやすい」基準を定めたことにより、この基準に該当するか否かによって業務上・外の判断を行うことになるため、審査が迅速に行われることが期待されるということでしょう。
また、基準が明確でわかりやすいということは、医学的な知識を持たない一般人からみても、判断基準に該当するか否かによって、業務上・外の判断がつきやすくなるため、業務上に該当する可能性が低い事案での労災申請は減少するのではないかと思います。
そこで、今月及び来月にかけて、従来からの「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」と今回新たに策定された「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」を比較検討してみたいと思います。
なお、認定基準の施行に伴い、判断指針は廃止されます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj.html
(厚生労働省HPより)
I.従来の判断指針(心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針)
認定基準の施行に伴い新たなリーフレットが作成されると思われますが、これまでの判断指針に基づくリーフレットは、本日(平成24年1月13日)現在、厚生労働省のホームページに掲載されたままになっています。
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040325-15.html
(厚生労働省HPより)
この判断指針のリーフレットによると、精神障害は以下の要素が複雑に関係しあって発病するとされています。
(1) 業務による心理的負荷
〜事故や災害の体験、仕事の失敗、過重な責任の発生、仕事の量・質の変化等 |
(2) 業務以外の心理的負荷
〜自分の出来事、家族・親族の出来事、金銭関係等 |
(3) 個体側要因
〜既往歴、生活史(社会適応状況)、アルコール等依存状況、性格傾向 |
|
そして、精神障害が業務上となるか否かを判断するに当たっては、
(1) 精神障害の発病の有無、発病時期及び疾患名の確認
(2) 業務による心理的負荷の強度の評価
(3) 業務以外の心理的負荷の強度の評価
(4) 個体側要因の評価
について具体的に検討した上で、次の判断要件のいずれをも満たす精神障害を、業務上の疾病として取り扱うこととされています。
| 【判断要件】 |
(1) 判断指針で対象とされる精神障害を発病していること
〜対象とされる精神障害でなければ対象としない
|
(2) 判断指針の対象とされる精神障害の発病前おおむね6ヶ月の間に、
客観的に当該精神障害を発病させる恐れのある業務による強い心理的負荷が認められること |
| (3) 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと |
|
1.業務による心理的負荷の評価方法
上記判断要件のすべてを満たさなければ業務上とは認められないため、まず、(2)の業務による心理的負荷がどの程度であったかを評価します。
この際に「職場における心理的負荷評価表」を用い、これによって評価した結果、総合評価が「強」と認められれば業務による心理的負荷は、精神障害を発病させるおそれのある程度の心理的負荷であったということになります。
総合評価の結果が「中」「弱」であった場合には、業務外と判断されることになります。
具体的には、以下の(1)出来事自体の心理的負荷の評価と、(2)出来事後の状況が持続する程度に係る心理的負荷の評価を総合評価することにより「強」「中」「弱」の評価を行います。
(1)「出来事」自体の心理的負荷の評価
【職場における心理的負荷評価表(1)(2)欄(抜粋)】→全部で43項目
(2)「出来事後の状況が持続する程度」に係る心理的負荷の評価
【職場における心理的負荷評価表(3)欄(抜粋)】→着眼事例として全部で24項目あり
(3)総合評価
(1)と(2)で検討した「出来事」及び「出来事後の状況が持続する程度」を総合的に評価して、業務による心理的負荷の強度を評価します。
(1)「出来事」の心理的
負荷の強度 |
|
(3)「出来事後の状況が持続
する程度」の心理的負荷
|
|
|
| III |
+ |
相当程度過重 |
→ |
強 |
| II |
+ |
特に過重 |
→ |
* 相当程度過重・・・同種の労働者と比較して業務内容が困難で、業務量も過大である等が認められる状態
* 特に過重・・・同種の労働者と比較して業務内容が困難で、恒常的な長時間労働が認められ、
かつ、過大な責任の発生、支援・協力の欠如等特に困難な状況が認められる状態
2.業務以外の心理的負荷の評価方法
1.で業務による心理的負荷の強度が「強」と評価されたとしても、3ページ(3)の判断要件にあるように、業務以外の心理的負荷によって精神疾患を発病していると認められる場合には業務上とは認められません。
業務以外の心理的負荷の強度がどの程度であったかを評価するために「職場以外の心理的負荷評価表」を用いて、真理的付加の強度をI〜IIIの段階で評価します。
【職場以外の心理的負荷評価表(抜粋)】→6項目32具体的出来事あり
3.個体側要因の評価方法
個体側要因として、既往歴、生活史(社会適応状況)、アルコール等依存状況、性格傾向に考慮すべき点が認められ、それらが精神障害を発病させるおそれのある程度のものと認められるか否かについて検討します。
4.業務上・外の判断
1〜3で検討した「業務による心理的負荷の強度」「業務以外の心理的負荷の強度」「個体側要因」により、最終的に業務上・外を判断します。
(1) まず、業務による心理的負荷の強度が「中」「弱」のときは業務外となります。
(2) 次に、業務による心理的負荷の強度が「強」で、これ以外に、業務以外の心理的負荷、
個体側要因が認められない場合には業務上となります。
(3) しかし、業務による心理的負荷の強度が「強」であっても、これ以外に、業務以外の強い心理的負荷、
著しい個体側要因が認められる場合には、業務による心理的負荷が精神障害の発病に
有力な原因となっているか否かを検討し、総合判断をすることになっています。
II.従来の判断指針と心理的負荷による精神障害の認定基準の比較
従来の判断指針は、業務による心理的負荷の強度を評価する際に、出来事自体の評価と出来事後の状況の持続する程度の2つにより総合評価するしくみをとっていました。
また、心理的負荷評価表には具体例が示されていませんでした。
認定基準では、出来事とその後の状況を1段階で評価するしくみになりました。
以下は、厚生労働省作成の比較表です。
未だリーフレット等が作成されていないこともあり、来月号で認定基準については詳しくお伝えしたいと思いますが、認定基準で心理的負荷の強度を認定する際に用いる「業務による心理的負荷評価表」は以下のようになっており、確かに、指針と比較して具体的になっていると思います。